バービカンホール、コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団(LSO)で、ベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」のコンサート・パフォーマンス(普通のコンサートみたいに演奏する)。まだもう一回行くかもだけど、1年以上前に買ったLSOの定期チケットでは、これが今シーズン最後。
今回もCD発売用に録音していたのだけど、楽団員がステージに上がる段階で明らかにお疲れ気味。LSOはもともとテンションの高いオケではないし、録音との関係でリハーサルとか多かったのだろうけど、なんだか「大丈夫かいな・・・」と心配になる。
ところがどうして、演奏内容は先月のハイティンク指揮のベートーヴェン交響曲サイクルを凌ぐ、素晴らしい出来だった!「フィデリオ」序曲は、ハイティンクの指揮でも聴いたばかりだったけど、デイヴィスはハイティンクより遅いテンポで、古楽器演奏の影響をあまり感じさせない解釈。ただ、もともとデイヴィスのモーツァルトベートーヴェンはドイツ的なグランド・スケールの解釈とは一線を画しているので、いわゆる「古さ」は感じない。遅いテンポながら躍動感があって、オケとの息がぴったり合っているのが分かり、まさに序曲を聴きながら「劇」への期待が高まるという理想的な展開。
本編の歌手陣は準主役フロレスタン役を除けば十分満足の行く出来。しかし、それより何よりデイヴィスの指揮が冴え渡ったね。コンサートパフォーマンスなのに、まるで実際のオペラを観ているように、ドラマに引き込まれる。純粋音楽的にせず、あくまで「オペラ」としての魅力を引き出してくる。フルオーケストラ(コントラバス8本)、遅めのテンポなんだけど、緩急の付け方がとても上手いので、全然だれないし、だからといって重すぎない。ソロ歌手はともかく、とにかくオケが流麗に歌う。演奏前の、あのお疲れモードはどこへやら、という感じ。変にドラマタイズすることなく、でもドラマチック。コーラスもとてもパワフルで、クライマックスに向けて、僕の脈拍が上がっていくのが分かったよ。
3シーズン前だったか、同じデイヴィス指揮LSOでベルリオーズの「ロミオとジュリエット」を聴きに行って、これまた純粋なコンサートなのに「劇」を観ているような錯覚にとらわれたのを思い出した。それ以来、あまりデイヴィスの指揮そのものに感動したことはなかったけど(ロイヤルオペラで聴いたシュトラウスナクソス島のアリアドネ」は秀逸だったが)、この指揮者の偉大さがようやく分かった気がした。
ちなみに、イギリスの次期首相になることが確実視されている財務大臣ゴードン・ブラウンが(財務大臣になってから結婚した)若い妊娠中の奥さんと聴きに来ていた。彼が(一部の保守党国会議員みたいに)音楽通であるという話は聞いたことが無いし、いかにも奥さんに「胎教に良いの!」とか言われて来た雰囲気(勝手な想像だが)。秘書らしき人が一人付いているだけで(あとSPが一人、二人外で待っていたかも)、普通に僕らの3、4列後ろで聴いていた。普通VIPだと周りの席を空けるとか、混乱が起こらないように前半で帰るとか、いろいろあるんだろうけど、ホントに他の観客と同じに来て、一通りカーテンコールまで残った後、他の客と一緒に帰ったみたい。休憩の時に僕らの目の前を通ったんだけど、全くカリスマ性とか感じなかったぞ。