元々クラッシック音楽の指揮者の話を聞くのは大好きである。彼らの多くは簡単な言葉で実に説得力を持って、論理的に、でも情熱的に、時に笑いを取ったりしながら話すんだが、これは話し手(特に教員たらんとする者)としての理想の姿だと思っている。まあ考えてみれば、国際的に活躍するような指揮者は言葉もろくに通じないような自認インテリ集団(オーケストラ)に乗り込んでいって、自分の考えを伝え、団員を魅了し、従えなければいけないのだから、並はずれたコミュニケーションスキルがあるはずなんである。
最近、ちとハマっているのが、(僕と誕生日が同じ)ダニエル・バレンボイム。ジャクリン・デュプレの元旦那、イスラエルで初めてワーグナーを演奏した人、色々な面で有名なんであるが、前からピアニスト・指揮者として大好きで、去年だけでベルリンとロンドンで5回も公演を聴いているほどである(今年は2回を予定)。それに加えて、4月終わりから5月初めにかけてBBCのラジオでやっていた5時間のレクチャーシリーズで初めてまとまった話を聞いて、ヤラレタ。
クラッシック音楽の現状、音楽のあり方と人生との相似、音楽教育の惨状、パレスチナ問題(ユダヤ人でありながら、バレンボイムイスラエル政府に批判的である)、彼が主宰しているユダヤ人の若者とイスラム圏の若者を合わせたオーケストラ、などなど。トピック的には微妙なものもあるけど、言っていること自体は特に新しいことはなく、難しいことを言っている訳でもないのに、何よこの説得力は。数週間に分けて放送されたこのレクチャー、週を追うごとに新聞の評価が高くなっていったんだが、うなずける。聞けばすぐにネイティブではないと分かる英語なんだが、話し手としては理想だなあ。
勢い余ってバレンボイムのドキュメンタリーをDVDで購入して今日見たんだが、やっぱり面白かった。つか、無茶苦茶かっこよかった。まあ、こういう掛け値無しの天才というか、才能のカタマリというか、カリスマというか、そういう人が顔を真っ赤にして、汗を垂らして、唸りながら仕事をしている、そういう場にいられる、というのはコンサートとかオペラという「体験」の面白さの、音楽そのものとはまた違った一つの側面だと思う。
(ちなみに↓の本は未読。まあ話を聞いたり、ドキュメンタリーを見る方が面白いよ、多分。)

バレンボイム/サイード 音楽と社会

バレンボイム/サイード 音楽と社会