バービカンでベルナルド・ハイティンク指揮ロンドン交響楽団(LSO)のベートーヴェンフィデリオ序曲」「第8番」と「第5番」。久々に嫁と行くコンサートである。CDで発売するためのライブ録音をしているせいか、どの曲も緊張感みなぎるとても良い演奏だった。僕が聴いた最近10回ほどのLSOの演奏ではベストに入るね。
特に中型編成(コントラバス6本)の時の弦の響きは出色。あれならヨーロッパの超一流オケに肩を並べるよ。第5番「運命(この副題は日本だけらしい)」ではブルックナーでもやるんじゃないかと思えるような大型編成(コントラバス9本)で、弦楽器が全体で20人近く増えたこともあり音色の質はちと下がったけど、それでも普段の水準を超える出来だった。まあ、録音のためにリハーサルの量が多かったのは容易に想像はつくんだけど。
ハイティンクベートーヴェンを生で聴くのは今回が初めてだったのだけど、僕的にはかなり好きである。というか、第8番では興奮して手に汗かいちゃったよ(もともとそういう曲じゃないんだけどね)。テンポが少し早めだったことを除けば特別なことはせず、ごく標準的な解釈だったと思うけど、随所の引き締め方がとても手際よく、全体的な構造が実にしっかり浮かび上がってくる。これが非常に説得的で、わかりやすく、でもフレッシュなんだな。「何度も聴いたことがあるのに、初めて聴いたような印象を受ける」とはまさにこのことじゃね。
第5番は第8番に比べると演奏の質も解釈のキレも一段下がる感があったけど、それでも十分満足。特に第3楽章のトリオでの弦楽器によるフガっぽいセクションがたまらない!第3楽章から第4楽章に切れ目無しに入っていくところなんかは、ハイティンクが会場全体に作り出す緊張感と相まって、僕までものすごいテンションが上がってしまったし。まあ、最初の2楽章だけ聴いた段階では、「わざわざ人数増やさないで、第8番の時の中型編成で良いのに」と思ってたんだけど、第5番のフィナーレはやっぱり大きな編成の方が効果的だね。
ハイティンクというと「特徴がない」とか「無難」といったイメージがあるし、確かに彼のマーラーなんかはあんまり好きではないけど、今回のベートーヴェンではこれが良い方向に出ていると感じた。「当たり前のこと」を頻繁に演奏される曲でやって、それであれだけの説得力を出すんだから、やっぱり奴は「巨匠」の一人だわね。アクションは大きくない指揮ぶりだけど、77歳とは思えない動きだし。先週、今週とハイティンク+LSOでベートーヴェン・サイクルの後半をやっているので、土曜に第1番、第9番を聴きに行くんである。楽しみだなー。