ロンドンはクイーンエリザベス・ホールでフィリップ・ジョーダン指揮ヨーロッパ室内管弦楽団(COE)を聴きに行く。フィリップ・ジョーダンは30代前半で、今ヨーロッパの出世街道を走っている指揮者である。

シャブリエの「田園組曲」で始まったコンサートでまず関心したのがCOEの上手さ。COEを聴くのは今回が初めてだけど、さすがレコーディングが多いだけのことあるね。年間活動日数が100日くらいで、コンサートもさして多くない(本拠地も持たない)オーケストラだけど、団員個々の水準が高いのかも知らん。ステージにいたのは60人ほどで結構多くて、でいわゆる「室内オーケストラ」という感じはしなかったけど。

続いて今回の(僕にとっての)メイン、アンネ=ソフィー・フォン・オッターが歌うマーラーさすらう若人の歌」。オッターは先月にもLSOのコンサートで聴いたけど、やっぱり好きな歌で聴くのは格別。たぶん50歳くらい行ってる、やたら背の高いおばさんなんだけど、「悩める若い男」の雰囲気が不思議にしっくり来る。「ばらの騎士」のオクタヴィアンを得意とするのは、こういうところだろうね(オクタヴィアンの悩みは大して深くないが)。声質は(僕はレコーディングでしか聴けない)全盛期に比べれば瑞々しさに欠けるけど、やっぱり表現力は圧倒的。全4曲が一つのストーリーとして迫ってくるし、まるでオペラでも観ているような気になる。曲自体が美しいし、オケは上手いし、いくつも鳥肌が立つような瞬間が。あー、何でも良いからオッターおばさんを生のオペラで聴いてみたいものだよ・・・。近年ロイヤルオペラハウスに出演が全くないのが悔やまれる。

後半は、ベートーヴェン交響曲第6番「田園」。ここは、ジョーダンの解釈が問われるところだけど、良い感じにまとめていたと思う。テンポは遅めで、あまり古楽器演奏の影響を意識させないような解釈。第3楽章はスケルツォとトリオのコントラストをやたらつけて面白かったけど、全5楽章通しての全体としての説得力はイマイチ。まあ、表題をなぞっているな、という程度か(「田園」はベートーヴェン交響曲で唯一、各楽章に表題がついている)。弦と木管は相変わらず正確な演奏だったんだが、いくつかホルンが不安定な箇所があって、目立った。

ジョーダンを聴くのは二回目だけど、もう少し指揮ぶりが面白いといいなあ。背も高いほうだで、ルックスも良い感じだし、アクション次第ではかなり見栄えすると思うんだけど。その辺ちと堅実すぎか。少なくとも今の段階では「指揮台での動きが曲の解説になる」タイプの指揮者ではないな。