エフゲニー・キーシンのピアノ・リサイタルに行った。やっぱこの人は盛り上げるのが上手い。アンコールとか当たり前のようにスタンディング・オベーションだし。

でもなあ、芸術性から見るとどうかと思うぞ。最初の曲、ベートーヴェンの作品番号2−3みたいに大きなソナタ形式の曲だと、極度に説得性を欠く気がする。要するに、「伝統的な西洋音楽の『形式』に則って音楽を伝えるのが苦手」という印象である。同じベートーヴェンでも二曲目の作品番号81『告別』みたいに、「第一楽章:さよなら〜→第二楽章:寂しい・・・→第三楽章:再会!」みたいなテーマ的スキームがハッキリしている曲だと、キーシンはとても上手なんだが。一曲目とは一転して曲全体がすんなり入ってくる。

後半はショパンスケルツォ全4曲。10分弱の独立した短い曲4つだから、こういうのもキーシンは得意である。でも、なんだかラフマニノフ前奏曲でも聴いてるのかと思ったよ。確かに上手いけど、わかりやすいけど、楽しいけど、繊細さというかロマンティシズムというか詩的な部分が全然出てこない。いや、好みの問題なんだけどね。観客は盛り上がってたし。

んで、アンコール三曲はキーシンの真骨頂。シマノフスキ短調エチュードでちと暗いムードにしておいて、ショパン嬰ハ短調エチュードop.10で一気に盛り上げ、リストのハンガリー狂詩曲第10番でダメを押す。こりゃ、ファンなら熱狂するよ。

僕も別に醒めてたわけじゃなくて、十分楽しんでいたですよ。

今日は嫁は行かなかったんだが、同じカレッジの同僚が2人来ていたので、オーストリア人とイギリス人相手に上のような感想を述べてみた。うわ、偉そうだ・・・。

そういや、カレッジに住んでいた2、3年前など、僕は何故か「カレッジの音楽担当者(Head of Music)」だったんだよね。「コンサートやりませんか?」とか「ピアノを新調しませんか?」とか「学生を連れてコンサートに行くと割引ですよ」とか、その手の手紙がみんな僕のところに来たんであった。もっとも、僕のカレッジに正式な音楽担当者はいないので、郵便を担当する守衛のおじさんが勝手に僕のメールボックス(普段から、チケットやらコンサートのDMやら通販CDが入っているので)に入れてただけなんだけど。